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詳しい(でも)わかりやすい 成年後見制度の改正の基本的あらまし

 2000年(平成12年)から施行されてきた現在の成年後見制度を大きく見直す民法の改正案が、本年4月3日に閣議決定され、国会での審議がなされており、6月中旬には成立する見通しとなっています。施行日は2年6ヶ月以内とされていますので、2028年(令和10年)度の半ば以降となります。

 この改正案は、法務省の法制審議会民法(成年後見関係)部会において検討した結果をまとめた要綱案に基づくものです。私は、この部会の委員に日弁連からの推薦でこの部会の委員として参加したくさんの議論を重ねてきました。その議論の経過を踏まえて、法定後見制度についての基本的なあらましを、どこよりも詳しく、でも、わかりやすく、お伝えしたいと思います。

 長い文章なので、まずは要約をお示しします。ご興味が湧いた方は、次にお進みください。

弁護士 青木 佳史

 


[要 約]

1 改正の背景と必要性

 2000年に施行された現行の成年後見制度は、25年間の運用を経て大きな課題に直面してきました。具体的には、「一度開始すると判断能力が回復しない限り一生終われない」、「必要のない事項にまで広範な権限が及ぶ」、「本人の意向よりも後見人の判断が優先されやすい」といった点です。これに対し、国連の障害者権利条約に基づく勧告や政府の成年後見制度利用促進第二期基本計画を踏まえ、本人の意思を尊重し、適切な時機に必要な範囲と期間で利用できる制度への抜本的な見直しが検討されました。

 

2 制度の構造:補助制度への一元化

 新制度の最大の特徴は、従来の「後見・保佐・補助」の3類型を廃止し、原則として「補助制度」に統一したことです。

 判断能力の程度から一律に支援内容を決めるのではなく、本人のおかれている状況から、特定の事項ごとに「必要性」を具体的に認定し、それに応じた代理権や同意権を付与する仕組みへと変わります。そして、制度の利用開始にあたっては、原則として本人の同意が必要となります。

 なお、「判断能力を常に欠く常況にある者」を対象に、同意権付与の例外的なオプションとして、類型的な取消権を持つ「特定補助人を付する処分」も設けられますが、鑑定等による厳格な認定が求められます。

 

3 「必要性」に基づく開始と終了

 今回の改正の大きな点として、判断能力に変化がなくても、利用の目的(必要性)が解消されれば制度を終了できるようになります。そして、これを実効的なものにするため、補助人には年1回、家庭裁判所へ「必要性の有無」を含めた報告義務が課されます。

 

4 意向尊重義務の具体化

 本人の意向を把握するようにする義務が民法上に具体化され、保護の観点だけでなく、本人の意思決定を支援するスタンスが明確化されました。

 

5 柔軟な交代の促進

 また、補助人に不正や義務違反がない場合でも、「本人の利益のために特に必要がある」と認められれば、家庭裁判所の判断で、補助人を解任することができるようになります。

 

6 施行時期と経過措置

 この改正案は本年6月には成立し、2028年(令和10年)中頃での施行が見込まれています。

また、施行時に現行制度を利用している場合は、原則としてそのまま継続されますが、本人の意向把握義務と柔軟な交代については適用されます。また、申し立てにより新制度への移行することや、現行のまま終了の申立てをすることも可能です。

 同じ6月に成立する社会福祉法の改正とも連動し、地域全体で権利擁護を支える体制整備が2年後に向けて、今後進められていくことになります。

 


[本 編]

 これからお伝えする項目は、次のとおりです。せっかちな方は、知りたいところにジャンプしていただいても結構ですが、私としては、なぜ改正することになったかをしっかり理解した上で、中味を確認していただきたいと思っております。

1 成年後見制度改正の必要性

2 見直しに向けた4つの課題

3 改正法案の基本的あらまし

(1)制度の利用開始

① 精神上の理由による判断能力の不十分さ

② 代理権や同意権を第三者に付与する必要性

③ 原則として制度利用について本人の請求または同意

④ 特定補助人というオプションー同意権付与の例外制度

(2)制度の終了

① 必要性解消で終わることができる

② 必要性の定期的な審査(法定報告制度)

(3)家庭裁判所の判断で交代ができるようになる

(4)本人の意向の把握と尊重をより大切にする方向へ

(5)報酬について

4 経過措置について

5 改正法の施行までの取り組みの重要性

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1 成年後見制度改正の必要性

 まず、なぜ改正が必要となったのか、についてお話します。三つのポイントがあります。

(1)

 まず、25年間の成年後見制度の運用の中から見えてきた問題点が、運用の改善だけでは難しく、法制度自体を見直すべき課題があることが明らかになってきました。

 この間の運用で明らかになった弊害として、特に重要なものにつき、具体例を二つ紹介します。1つは、本人さんの意向で自分の生活を決めていきたいと思っても、後見人が別の考え方に基づいてその実現を支援しないという例です。施設暮らしの長かった知的障害の方が、職員の皆さんと一緒に地域移行のための訓練をしてグループホームで暮らす自信がついたのですけれども、ご両親が亡くなった時に選任された後見人が、地域で暮らすことは心配であると、施設の方が安心ではないかということで、施設から退所してグループホームの利用するための契約などに応じてくれないという事例が各地でいくつも出ている状況にありました。2つ目は、精神障害の方が、ご両親の遺産分割の必要があったのだけれども、それについては当時は難しい法的な判断をすることができず、成年後見を利用せざるを得なくなりました。ただ、普段の日常の生活費の管理とか、どんな福祉サービスを利用するとか、服薬の管理を相談するということについては、本人と支援者の皆さんとで十分にできていました。けれども、成年後見人がつくと、そういった日常のことも含めて全てについて権限を持つということになり、本人さんではなくて後見人が中心に決められていく、支援者も必ず後見人の了解をとることになってしまって、本人からすると自分のことなのに自分を中心にできない不満が溜まりました。もうご両親の遺産分割は終わったので、後見人は終わりたいと家裁に相談をしても、判断能力が回復しない限りは終われないのですと言われて継続しているという問題も各地で指摘されています。こうしたことがあると、それがために本来は使う必要がある方についても、使うのを躊躇し控えてしまうということにもなっていました。

(2)

 こうした問題について、平成28年からの第1期成年後見制度利用促進基本計画では、運用の改善で対応を図ろうとしましたけれども、やはり制度そのものが抱えている問題への対応が必要であることが確認され、令和4年3月閣議決定の第2期成年後見制度利用促進基本計画においては、明確に成年後見制度の見直しが提案されたのです。

(3)

 そして、同じ年の10月、障害者権利条約の日本の実施状況に関する初の国連障害者委員会による審査結果として総括所見がまとめられ、日本政府への勧告として、意思決定を代行する制度を廃止する観点から、すべての差別的な法規制、規定及び政策を廃止して、すべての障害者が法の前に等しく認める権利を保障するために民法を改正すること、そして、必要とする支援の水準や形態にかかわらず、すべての障害者の事実、意思、選好を尊重する支援を受けて意思決定をする仕組みを設置することが求められることになり、第2期基本計画の見直しの視点ともちょうど合致することになり、民法の改正による成年後見の見直しとともに、権利擁護の新しい事業を地域福祉として作り出し、意思決定支援を支援する仕組み作りが目指されることになったのです。

 このような流れの中で、民法改正に向けた検討が、令和4年(2022年)から本格化したということになります。

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2 見直しに向けた4つの課題

 今回の民法改正に向けて、部会の議論に課された課題・宿題は、次の4つに集約されました。この4つの課題をどのように解決していくかを中心に、成年後見制度の見直しが議論されてきました。

 1つ目は、先ほどの例で紹介しましたように、本当に必要とされたことが終わった後も、判断能力が十分でないということが変わらないというだけで、制度がずっと続いてしまう、終わらない、という点が、使いにくいということになっています。
 2つ目は、本人さんに必要なことのために利用するのだけれども、必要と考えていなかったその方をめぐる様々な事柄についてまで広い権限がついてしまう。本人のした行為を取り消すことができる権限までついてしまう。現行の成年後見人は、そういう広範で包括的な権限を持っていますけれども、それは、本人ができるだけ自分が決めることは決めていこう、という意思決定支援の考え方からいうと広すぎる。先ほど例でも、遺産分割のために必要だと思ってつけたのに、普段の生活に関する支援やサービスの使い方、本人さんの暮らし方までも後見人に相談しなければならない、窓口になってしまうということです。
 3つ目は、このように後見人の権限はとても広いので、後見人の価値観による判断の幅が広く認められており、本人さんの意向に反することであったとしてもやむを得ないものとして、後見人の判断が優先されてしまうこともあるということになります。本人の利益のためにそれがやむをえない場合もあるのですが、先ほどグループホームに入りたいのになかなか進まないという本人中心の利益に明らかに反する事態も各地でありました。
 そして4つ目は、本人さんの生活は、時間の経過とともに、その時々において必要とされる支援の中身というのは変わっていくわけですが、同じ後見人がずっとついている。最初は法的な課題があったので弁護士さんがつくことが必要だったけれども、それが解決した後は、身近な生活ことに関してきめ細やかに相談に乗れるように、もっと身近な方が相応しいとなっても、後見人自らが交代すべきだとして辞任を申し出ない限りは、裁判所から交代はいえないジレンマがある。
こうした4つの課題の解消を図り、より本人中心に利用しやすり制度にしていこうということです。これを「適切な時機に、必要な範囲と期間で利用する成年後見制度」にというスローガンで議論を重ねることになりました。
 国で行われた検討経過は、次のとおりです。

 

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3 改正法案の基本的あらまし

 それでは、改正法案の示す新しい制度の基本的なあらましをご説明していきます。なお、任意後見制度も見直されますが、ここでは、家庭裁判所が選任する法定後見制度についてお話します。見直しの主なポイントは、次のとおりです。

 

(1)制度の利用開始

 

 ① 精神上の理由による判断能力の不十分さ

 まず、制度を利用するには、精神上の理由による判断能力の不十分さがある人が対象となるという点はこれまでと同じです。しかし大きな変更は、これだけではどんな制度になるかは決めないことを原則にしましたというのが重要です。今までのように後見、保佐、補助という三類型に分けることはやめました。判断能力の程度だけで、ご本人に必要な支援の内容は当然には決まらないはずだ、それを3つに分けるから硬直的になっていたのだということから、包括的な代理権や取消権を付与する後見人は廃止し、民法が定める事項全てについて同意権を付与する保佐人も廃止することにしました。

 これからは補助制度に一元化することが基本となり、補助制度の利用開始といい、選任されるのは全て補助人ということになります(ただし特定補助人というオプションがあり)。後見人、保佐人という名称は新制度ではなくなります。

 

 ② 代理権や同意権を第三者に付与する必要性

 次に、制度利用をするためには、精神上の理由による判断能力の不十分さに加えて、本人が、その生活において、具体的にどんな事務を補助人に代わりに判断してもらう必要があるのか、という「必要性」を具体的に認定して、必要性のある代理権や同意権だけを設定することにしました。これが今回の制度の根幹をなすものになります。

 具体的な必要性というのは、例えば遺産分割が必要になったとか、あるいは生活場所を変えるので福祉サービスの利用契約をする必要があるとか、あるいは金銭管理がご自分では難しいので金銭管理を第三者にやっていただく必要があるなど、一つづつ、ご本人さんにとって何の課題があって、それについて必要かどうかを確認し、それに応じたものだけを認めていくということになります。

 現在の保佐人や補助人においても、代理行為目録というのがあって、その中から本人に必要なものを選んで設定し、本人に説明をして理解をいただき同意をもらうこととしていました。補助人については、加えて、同意行為目録というものがあり、その中から、補助人に事前に同意をもらうべきものを選んでいました。今後は、これを判断能力の程度によらず全員について同じようにして、必要がある事項を確認していこうということです。現在の代理行為目録と同意行為目録は、各地の家庭裁判所のホームページに掲載されていますので、ご参照いただいてイメージをもってください。

 また、必要があるかどうかを考える時には、成年後見制度以外の方法でも支援できることはないか、例えば、各社協が実施している日常生活自立支援事業を使うことで支援できないか、あるいは、施設や家族が本人の意思を尊重しながら体制も整えて金銭管理の支援をしていることで賄えないか、ということも検討することにしています(これを「補充性」といいます)。

 

 ③ 原則として制度利用について本人の請求または同意があること

 そして、制度を利用することについて、できるだけ本人が理解して同意をしてもらった上で開始することを原則する、ということにしました。本人のために利用する制度なわけですから、本人の能力に合わせた説明の仕方を工夫して、理解を得ることに力を入れることにします。ただ、中には、どうしても制度の説明をしても理解が難しい方もおられます。そういう方でも利用の必要性が高い方はおりますので、例外として、本人さんが同意の意思を表明することが難しい方の場合は必要性をしっかり認定していきましょうということになります。

 ただ、本人は制度を理解する能力はあるのだけれども、自分には制度利用の必要はなく自分でできるとして同意をしない場合もあります。この場合には、本人の意思が優先するので制度利用はできないということになります。こうした場合にも制度利用の必要があると考える支援者やご家族としては、なぜ必要かを本人に粘り強く説得することが求められます。

 

 ④ 特定補助人というオプションー同意権付与の例外制度

 さて、制度開始の基本構造は、以上にお話したとおりなのですが、今回、同意権付与の仕組みについては、例外的なオプションを設けることになりました。特定補助人を付する処分というものです。

 同意権の付与は、本人の必要性のある事項ごとに設定をして、本人が間違ったり騙されたりして契約をすることから守ろうとする仕組みが基本型です(もちろん同意権を付与する必要がない方もたくさんおり、その場合は不要です)。

 通常はそれで本人がどんな事柄で契約をしてしまい失敗をするかは概ね予測できるのでいいのですが(通信販売とか、クレジット契約とか、訪問販売とか、親族への贈与とか)、中には、どんなことをするか予測がしにくい方もいるかもしれないということです。そこで、判断能力を常に欠く状態であることが普通である方の場合(民法の条文では「事理弁識能力を欠く常況にある者」といいます)、予測しないようなことで間違った取引をしたのに取消権がついてないことで不利益がないようにするため、そのような必要性がある場合に限って、重要な財産上の行為については全部についてまとめて取消権を行使できるように、特定補助人をつけるというオプションを設けることになりました。

 ただし、これまでの後見類型のように、診断書だけで易々と「事理弁識能力を欠く常況にある者」と判断されることは避けなければならないという反省から、原則として鑑定を実施し、そうでない場合も医師2名以上の診断書によることにして、厳格に例外的なオプションとしてのみ利用することが想定されています。

 そして、けして誤解しないようにしていただきたいのですが、特定補助人には重要な財産行為について取消権が付与されるだけであり、一般の代理権が幅広く付くことはありません。代理権は、原則どおり、事項ごとにつけるのです。あくまでも同意権の付与に代わるオプションです。一部で誤解が広まっているような現在の後見人に代わって特定補助人になるということではけしてないのでご注意ください。

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(2)制度の終了(取消)

 次に、制度を終了する場合が、今回の見直しで大きく変わることになります。

 

 ① 必要性解消で終わることができる

 これまでは判断能力の程度の回復がなければ、後見や保佐を終了する(民法上の用語では「開始決定の取消」といいます)ことは認められてきませんでした。今回の改正で、制度利用の開始において「必要性」をしっかり判断することの裏返しとして、判断能力に変化はなくても、その「必要性」がなくなったことが認められた場合には、制度を終わらせることができることになりました。先ほどの例で言えば、遺産分割が終わって、特にその他の支援については、周りの支援者と本人で相談してできている場合には、必要性がなくなったということで終わることができるようになります。ただ、本人や周囲の人が終わりたいと希望したから終わるというものではなく、必要性が解消したことを資料等に基づき裁判所が認定できる場合に終わることができるというものです。このことにつき、裁判所が終わらせてしまったあとの本人の支援はどうなるのか、という疑問がよく寄せられますが、補助制度で支援する必要性がある場合には終わらないのであり、終わらせるのは、他の支援策で本人の支援ができる見込みが確認できた場合ということなのです。

 どのような場合に終わることができることになるのかは、今後の実務の積み重ねで具体的になっていきます。本人の置かれている状況によって、様々なバリエーションが考えられます。ご本人の生活環境や支援状況によりケースバイケースですし、各市町村や各地域の社会資源の違いによっても異なってくるかもしれません。それぞれの状況に応じて柔軟に判断していくことになります。今年6月に改正される社会福祉法の改正で、新しい権利擁護のための事業が第二種事業として定められ、各地域でこれから展開される見込みですが、そうした制度の充実や本人を支援するチームができていることで、終わることができる事案が増えていくことになるので、今以上に各地域の支援力が試されることになります。

 ところで、制度利用の開始においては、原則として本人の同意が必要となりますが、終了については、あくまでも必要性の解消があるかどうかで判断をするもので、本人がもう制度利用はしたくありません、と同意を撤回したとしても、それだけで終了させるということにはなりません。本人が同意しないと言っても必要性が残っている場合には終わらせることにはなりません。ただ、本人の同意の撤回の趣旨には、必要性がなくなったからやめるという趣旨が入っていることもあるかもしれませんし、現在の補助人との関係がうまくいかないことがあるかもしれません。本人の意向はそうした必要性や交代の検討に生かしていくことになります。

 

 ② 必要性の定期的な審査(法定報告制度)

 終わることができる制度に向けた仕組みとして、今回の改正では、制度利用に有効期間を設けることはしませんでした。その代わりに、補助人には、年に一度、必ず家庭裁判所に事務の報告とともに必要性の有無について報告させる義務を課すことになりました。実際の必要性がなくなっている場合に、漫然と制度が続くことがないように、家庭裁判所が判断し、裁判所自らが取消すこともできるようにしました。

 

 こうして、ようやく、成年後見制度も、医療や介護・福祉サービスと同じように、必要な時に使って必要がなくなったら終わる。必要な部分にのみ使う、という、本人のニーズに応じたサービス利用の制度にしていきましょうという、当然といえば当然の、同じ発想に立つ制度になった、といえるわけです。

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(3)家庭裁判所の判断で補助人の交代ができるようになる

 先に挙げた4番目の課題として、後見人等が自発的に辞任しない限りはなかなか交代しづらいということがありました。これについて、今回の改正では、補助人から辞めるとの申し出がなくても、「本人の利益のために特に必要がある場合」と認められたときには、家庭裁判所の判断で解任をして他の方を選任することで、交代をさせることができるようにしました。

 これまで家庭裁判所ができる解任というのは、後見人等が不正をするとか、大きな義務違反をするなど重大な場合だけでした。しかし、重大な義務違反とまではいえないかもしれないけれども、他の支援者とともにチーム支援ができないとか、本人の意思決定支援に消極的であるとか、必要な情報を共有して対応ができていない補助人であるために、本人に不利益となっている場合があります。そういう場合には、家裁の判断で解任できるようにして、ただ欠格事由にはならないことにして、家庭裁判所が判断をしやすくすることにしました。とはいえ、本人との相性が良くないとか、男性より女性の方がいいといった本人の希望・好みで交代ができるようになるわけではありませんが、本人の利益に着目して柔軟に運用することが期待されます。

 

(4)本人の意向の把握と尊重をより大切にする方向へ

 そして、なかなか報道では取り上げていただけませんが、今回の改正のもう一つの大きな目玉は、本人意思尊重義務(旧858条)が、より具体的に充実されることになったことです。これまでも後見人等の義務として、本人の意思尊重義務があったのですが、やはり本人の意思よりも保護の観点が強かったという反省から、福祉や医療の現場で提起され実践されてきている意思決定支援の取り組みを、補助制度にも具体的に盛り込むこととしました。本人の意思の尊重というだけではなく、その前提として、本人が意向を示すことができるように、本人に理解できるように必要な情報を提供した上で、本人の意向を把握するようにしなければならないということを義務の内容として書き込むことにしました。これによって、本人の意向をしっかりと把握した上で事務の方針を定めていくというスタンスが明確になりました。今後は、補助人の事務は、できるだけ本人の意向意思を把握し、把握できた意向を尊重する方向で考えようというバランスに変わっていくことが期待されることになります。

 

(5)報酬について

 一般には関心の高い報酬の在り方については、今回の民法の改正で大きく変えることにはなりませんでした。ただ、今後は、特定の事項ごとの代理権、同意権付与ということが基本的になります。そうすると、それぞれ設定された代理権や同意権の中身によって報酬を決めていくということになるので、今のように、基本的な職務については同じような目安で決めていることに比べると、事案により報酬の決め方の差が出てくる状況にはなりますので、報酬の予測可能性や透明性はなかなか確保しにくくなると思われます。そうはいっても、できるだけ利用者がある程度予測できるようにするにはどうしたらいいかについては、運用態勢整備の課題として、改正法の施行までに検討を重ねることになります。ただ、これまでは一旦始まったら一生つくことを前提にして、月いくら、年いくらというふうに報酬の負担の重さを感じていたものが、今後は、必要な期間だけ使える制度になるわけですから、必要な時には相当の報酬が払われ、必要がなくなれば終了して負担がなくなるということによって、報酬負担のメリハリをつけていくことが期待されることになります。

 

 以上が、今回の民法改正による新しい補助制度の基本的なあらましになります。

 これ以外にも、本人が予め公正証書で補助開始の申立て権を持つ者を指定することができることになりました。また、死後の事務処理は、補助人全般が、権限に応じて、裁判所の許可も得ながらできることになりました。また、補助人の選任については、今以上に本人の意向を選任にあたって重視することになりました。

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4 経過措置について

 ところで大きな関心事として、現在すでに後見・保佐・補助を利用しているケースは、改正法の施行によりどのような影響を受けるのかがあります。

これについては、今回の改正法の附則で、経過措置が定められています。

 まず、現行の事案は、原則として現行の制度のまま継続することになります。ただし、本人に情報提供し意向を把握する義務については現行事案の後見人等にも適用されます。また、本人の利益のため特に必要な場合に認められる新しい解任事由(交代)は、現行事案にも適用がなされます。

 また、現行事案から新制度の補助制度に移行したい場合は、本人や四親等内親族、後見人等や後見監督人の申立てることにより、補助制度へ移行することができます。

 それから、現行事案から新制度に移行せずそのまま終了させたい場合には、申立てにより、家庭裁判所が必要性や相当性などを判断して可能とされれば終了する(取消す)こともできるようにされています。

 このように、現行事案は、そのまま継続することも、新制度へ移行や終了ができる道も開かれており、柔軟な対応が可能です。こうしたことも踏まえて、制度の利用を考えてください。

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5 改正法の施行までの取り組みの重要性

 令和8年5月現在、民法一部改正案が国会で審議されており、6月中旬には参議院を通過して成立する見込みです。その後、2年6ヶ月以内に施行されることになりますので、おそらく令和10年の夏から秋頃の施行が見込まれています。

 また、同時期に、社会福祉法も改正されますと、現在は、各市町村の約8割に設置されてきている中核機関が、「地域権利擁護相談支援センター」という名称に代わり、法定の機関として設置されることになります。この施行は令和9年4月からです。また、地域福祉における新たな事業として、これまでの日常的な金銭管理や福祉サービス利用援助に加えて、入退院支援や死後の事務処理を可能とする第二種事業が創設され、これが令和10年4月に施行されます。民法と社会福祉法の一体的改革が、こうして着実に進められることが期待されています。

 これに向けて、この秋から2年後の施行に向けて、家庭裁判所や都道府県・市町村の体制整備や運用整備のための準備が進められることになります。

 今回の改正により、本人ごとの具体的な必要性(補充性)に基づき特定の権限を付与する制度とすることを基本とし、状況に応じた付与すべき権限の見直し、後見人等の柔軟な交代、必要性の解消により終わることができる法制上の枠組みが整うことになります。

 その改正の趣旨(入れ物)が、実際の運用において具体的に実現する(中味が充実)ためには、国の各機関、家庭裁判所、都道府県、市町村、専門職団体、医療機関、福祉事業者、金融機関をはじめとした関係機関・関係諸団体が、それぞれに期待される役割を果たすことができるための体制整備、基盤整備をそれぞれ推進していくことが肝要です。

 ここに主要なものを5つほど掲げていますが、これに限りません。準備していくべき課題を、来年3月に閣議決定される第三期基本計画にしっかりと盛り込み、これを全国の市町村でも反映していくことが求められています。

 25年ぶりの大きな改正が、利用者にとって本当に使いやすいものになるために、第三期基本計画の策定と各都道府県や市町村における取り組みがいよいよ大切になっていきます。

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