トピックス
トピックス

成年後見人等の報酬 最高裁と各家裁の改善の方向性がようやく定まる!

 成年後見人等の報酬はどのように決まるか、ご存じでしょうか。

 裁判所が選任する法定後見制度の後見人、保佐人、補助人(まとめて後見人等といいます)の場合は、その事案に応じて、裁判所が決定することになっています。民法に次のような定めがあります。民法862条「家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。」。

 

 この規定に基づき、家庭裁判所は、後見人等については、毎年1回、後見人等が定期報告をする際に、1年間の職務内容を見て、担当裁判官が個別に判断して決定します。あくまでも個別事案の裁判事項として決めるのですが、どんな目安で決めているのかについては、いくつかの家庭裁判所のHPに目安が掲載されていますが(たとえば、大阪家庭裁判所については、こちら→

https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/file/f3104.pdf)、一般にはあまり知られてはきませんでした。

 

 報酬については、実際にどの程度の報酬となるのか利用を考える本人や親族からは予測がつきにくい、透明性がない、実際に行っている職務に比べて高額な例があるのではないか、反対に、虐待対応などの困難な事案や本人の意思決定支援や身上保護をしっかりすべき事案がきちんと評価されていないのではないか、など様々な改善の意見が出されるようになり、成年後見制度利用促進基本計画において報酬算定のあり方について検討することが示され、7年前から専門家会議での議論がなされてきました。

 

 すると最高裁家庭局は、これを受けて、令和3年度に、報酬の見直し方針として、管理財産額や後見人等の専門性などは考慮せず、財産管理と身上保護の事務項目を分けて、実際の事務ごとに単価を設けて積算する方法を検討するとの案が示され、新聞でも「裁判所が報酬の決定方法の見直しへ」と大きく報道されることになりました。

 

 しかし、この案については、後見人等の職務は、ご本人の状況、生活場所などの状況、管理財産の種類や額、収支の状況、必要な医療や福祉サービスその他の手続の対応、親族間の対立や虐待や消費者被害からの回復などなど、求められる職務は事案ごとにじつに多種多様で、事務量だけでは図れない専門性の発揮や質的な要素が多くあり、それらの事情を考慮しないでは適切な報酬の算定にはならないと、それまで後見業務を担ってきた専門職団体から疑問が呈されました。当事者団体や家族の会からは、事務量による算定はわかりやすくはなるが、それで報酬が積算され高額になるのではないかとの危惧、専門性を活かした後見業務に適切な評価をしないと適切な担い手を確保できなくなっては困る、必要な事務を果たしていない場合の減額などは検討してほしい等の厳しい意見が寄せられました。これが2年前の議論です。

 

 その後、最高裁判所と全国の家庭裁判所では、こうした意見も踏まえつつ、実際の典型的な事例を想定して後見事務量の積算による算定などの試みもしながら、2年にわたる内部での検討を重ねられ、今年7月27日、成年後見制度利用促進専門家会議第4回運用改善に関するワーキンググループの会議において、検討結果をとりまとめ今後の方向性が打ち出されました。

 この概要を紹介しますと、検討の結果、一つ一つの事務の位置付けや見方について裁判所ごとに様々な考え方の幅が大きいことが明らかになり、また、虐待対応のある事案で財産額が少ない事例(これは実際に多数あります)については算定結果が高額となり、そのため、本人の資力を全く考慮せずに事務量で算定すると財産が少ない事案で重い報酬負担になり制度利用の妨げとなるのではないか、また担い手確保の観点でも問題を生じさせかねないのではないかという結果から、事務量に基づき積算するという方針は採り得ないとの結論を出しました。

 

 そこで全国の家庭裁判所としては、これまでの本人の財産額、収入などによって報酬の目安とする考え方は維持した上で、

① 身上保護・本人の意思尊重という観点を踏まえた、後見人等に期待される事務や役割及び専門職後見人の専門性が特に評価されるべき場面の整理

② 虐待対応や親族間紛争があるなど事務の負担の重い事件(対応困難事案)のイメージの共有

③ 身上保護事務の評価をする際に必要な視点の共有(福祉サービスの契約変更などの法律行為に着目して評価するのではなく、チームによる支援を含む一連のプロセスを本人の意思尊重・福祉という視点から捉えて評価すること)。

④ 適切な報酬算定のため、身上保護・意思決定支援に関する事情を含む必要な事項の過不足のない把握のための報告書式の検討

を行うことによる現場に即した改善が求められる、ということになりました。

 

 具体的には、令和7年4月からの運用開始を目指して、今年度と次年度をかけて、最高裁家庭局及び各地の家庭裁判所において、関係機関や専門職団体とも意見交換しつつ、次の整備をしていきます。

① 報告書式の変更

 身上保護や意思決定支援に関する事情も適切に把握できる報告書式とする。

② 身上保護事務の評価

 個々の法律行為等に着目して積算しないことを前提に、プロセス全体を見て身上保護を評価

③ 財産管理事務の評価

 資産額が非常に高額であるために報酬額も高額になる事案については、事務負担の程度等事案全体を見て評価することで、従前よりも減額になることも考えられる。財産管理の付加報酬については、専門性を適切に評価するという観点から、法テラスの代理援助立替基準を参考にする。

④ 予測可能性の確保

 報酬付与額の平均などの過去の実績を示すことで、できる限り予測可能性の確保に努める。

 検討の詳細についての詳しくは、厚労省成年後見制度利用促進専門家会議の運用改善ワーキングチームの資料や議事録をぜひご参照ください。

 「成年後見制度利用促進専門家会議 運用改善ワーキング」のサイト

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34033.html

 

 私たちは、これまで後見実務を担ってきた法律専門職として、特に弁護士は、虐待事案や触法事案、親族間紛争など一つひとつが多様で類型化できない職務を期待されていることを実感しており、たしかに報酬の予測可能性を期待するニーズがあることは理解できるものの、商品サービスのように、類型的に一律の目安を示すことが難しいものであることを実感しています。個別の事務量だけで算定されては、報酬を負担する側も担い手側もいずれも持続的な制度にならないと考えており、今回の最高裁判所と全国の家裁の方向性は、後見実務と利用者の負担の現実を踏まえて、一時期見誤った新提案をしたことを撤回し、基本的な方向性を維持しながら必要な改善を図るものとして評価をしているところです。

 

 ところで、報酬問題で、これと両輪として重要なことは、財産が少なく収入も少ない事案について、国や市町村による報酬助成制度を抜本的に拡充することです。これについても厚労省において検討がされてはいますが、自治体の財源確保を含めて抜本的な国の制度的手当が望まれますが、まだまだ不十分なままです。これについては、また別の機会にお話したいと思います。

                                  以 上

トップへ

ページトップへ