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私たちはどう生きるか~人生の最終段階の過ごし方~

 人生の最終段階、順風満帆な人もいれば、思いがけないトラブルに見舞われることもあります。特に多いのが、健康上の問題。足腰が悪くなり、買い物に行けなくなったり、いろんな日常の作業が困難になったり。また、体は元気でも、認知症にかかってしまい、物忘れがひどくなったり、物事の判断ができなくなってしまうことがあります。

 これまで元気に一人でなんでもできていたのに、人生の最終段階では、それが難しくなってしまう。そんなとき、重要なのは、支えてくれる周りの人たちです。家族だけでなく、医療、福祉、そして法律の専門職である弁護士。100人いれば100通りある、人生の最終段階の過ごし方を、専門職ら支援者がチームとなって考えていくのです。

 厚生労働省は、人生の最終段階の生き方についての実際の事例を、「人生の最終段階における意思決定支援 事例集」

https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000661828.pdf

としてまとめています。この中から、一つ事例を紹介させていただきたいと思います。

 

事例:在宅での最期を希望されたケース(事例集3~4頁)

 この事例は、慢性呼吸不全等の持病のある独居の男性(Aさん)が、入院や施設には入らずに自宅での最期を希望したケースです。妻に先立たれ、息子は遠方に住んでおり仕事が忙しく、日常的な介護ができるご家族がいない事案でした。遠方に住んでいる息子さんとしては、独居の父の体が心配なので、入院して治療を受けてほしい。しかし、Aさんは、妻を看取った自宅で、自分も最期を迎えたいという強い意思を持っていました。家族の意向と、ご本人の意向が食い違うことで、ケアマネージャーら専門職による支援チームは、板挟みとなってしまいました。この問題に対し、支援チームは、Aさん本人の意思確認や、チーム内での情報共有を行い、「本人の意向に沿って最期まで支えること」という、自宅看取りの方針を明確にしました。そして、この方針に、遠方の息子さんも納得され、自宅で最期を迎えられました。

 

 上記は、チームとして情報を共有し、ご本人・家族とコミュニケーションを図ることで、ご本人の意思に沿った方針が実現できた事例でした。このような事例に、弁護士も出会うことがあります。私が関わったケースをご紹介したいと思います。

 

事例:息子のために自宅を離れたくないBさんのケース 

 Bさんは、独居の男性で、妻に先立たれており、家族は息子が一人いる方です。その息子さんは、刑事事件を起こしてしまい、遠方の刑務所に服役中です。ご本人は健康状態が悪く、日に日に体が弱くなっています。自宅も老朽化し、さらに認知症も進んでいたため、火元の管理などを始めとして、一人での生活が危険に思われる状況でした。そこで、日常的にご本人に接しているヘルパー、ケアマネージャーの情報を受け、市が申立てを行い、私が補助人に就任しました。

 私がBさんと話し、施設への入居を進めても、「体が悪くなっても、俺はこの家にいる」と強い意思を示していました。なぜ、そんなにご自宅にこだわるのか聞いてみると、「息子が帰ってくる家だから」とのことでした。そこで、私は、情報を共有するために、ケアマネージャー・ヘルパー、訪問看護師らと会議を行いました。会議でわかったことは、Bさんは、息子さんのことがずっと気がかりであり、息子さんが刑務所に行くときに、「おやじ、またこの家に帰ってくるから、よろしくな」と言ったことをずっと覚えていたようです。そのため、息子が帰ってくる場所を守らないといけない、自分が家を離れてはいけない、そういった気持ちを持ち続けていたのです。

 上記事情が判明してから、私は、刑務所にいる息子さんに会いに行きました。息子さんは、父親が一人暮らしが困難なくらい体が弱っていることにショックを受けましたが、「無理しておやじに家にいてほしいとは思っていない、おやじの健康を優先してほしい、施設に入った方が安心できる」と言い、その内容の手紙をご本人あてに送ってくれました。

 手紙を受け取ったご本人は、号泣し、私に、「施設に入る手続きをお願いします」と言っていただけました。おそらく、これまで遠方の息子さんに自身の健康状態を打ち明けられずにいたが、息子さんの、父を心配する言葉に、心が動かされたのだと思います。その後、ご本人は施設に入り、施設で最期を迎えられました。

 チームとして情報を共有し、本人・ご家族とお話することで、家族間でのすれ違いが解消でき、ご本人の真意に基づいた、支援ができた事例でした。後見人等に就任した弁護士は、ご本人を支援するチームの一員として、ご本人の意思を中心に、人生の最終段階の生き方を考えています。

 

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