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「住まいは権利」の実現のために-新たな住宅セーフティネットの見直しに寄せて

 2017年10月に施行された改正住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)により、①高齢者や障がい者、低額所得者等の住宅を確保することが困難な「住宅確保要配慮者」への提供を拒まない賃貸住宅として登録する制度(登録住宅制度)、②専ら住宅確保要配慮者に提供することとして登録された住宅(専用住宅)に対する家賃等低廉化措置、③住宅確保要配慮者への入居や入居後の生活支援にとりくむ居住支援法人、④登録住宅における機関保証などの要件を定めた登録規程による家賃債務保証業者の任意の登録制度などを柱とする新たな住宅セーフティネットがスタートしました。
 施行後5年間の状況を踏まえ、目下、国土交通省、厚生労働省、法務省の合同による住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討会において、新たな住宅セーフティネットの見直しの議論がされており、昨年12月には、中間とりまとめ(案)が公表されました。
 しかし、コロナ禍での住宅難のもと、住居確保給付金制度は、要件を緩和したことにより、利用が急速に拡大したのに対し、登録住宅や家賃等低廉化措置の利用は、ほとんど進みませんでした。確かに、登録戸数は、当初の目標(2020年度末までに17万5000戸)を超過達成したものの、大半は特定の事業者の既存賃貸住宅が大量に登録されたことによるものであって、空室率はわずかに2.3%であり(2022年12月末時点)、およそ住宅確保要配慮者のニーズに即応できるものとはなっていません。また、5万円未満の家賃の登録住宅が全国で約19%、東京都で約1%であり、低家賃住宅が少ない点も、利用がされない要因となっています。家賃等低廉化措置に至っては、2022年7月時点で、わずか48自治体で実施されたにとどまっています。中間とりまとめ(案)では、このような現状にとどまり、ほとんど利用されていないことについての分析が十分になされているとはいえません。
 他方で、中間とりまとめ(案)では、住宅確保要配慮者への賃貸住宅の供給が進まないのには、賃貸人側に、家賃が回収できなくなる等の懸念から拒否感があるとして、「賃貸人が住宅を提供しやすい市場環境の整備」を打ち出し、その一つとして、家賃債務保証業者による機関保証を円滑に利用できるようにすることを提唱しています。しかし、家賃債務保証業者は、もっぱら家賃未収リスクを軽減、回避するために、賃貸人側の都合で利用されているものであり、賃借人のニーズに基づくものではありません。まして、登録住宅において、家賃債務保証業者により保証を提供するか否かの審査を経なければ、賃貸借契約が締結できないというのは、住宅セーフティネットの制度趣旨に反するものではないでしょうか。加えて、家賃債務保証業者は、最高裁令和4年12月12日第二小法廷判決で否定された「追い出し条項」などに示されているとおり、賃借人の生活の平穏を害する「追い出し」行為による被害が問題となっており、義務的登録制など法的な規制がなされない状況で、住まいの安定の確保が求められる住宅セーフティネットで利用するべきではないでしょう。登録住宅においては、保証人を不要とするか、居住支援法人や公的な機関保証によるべきです。
 住宅セーフティネットをいうのであれば、民間任せにするのではなく、公営、公団などの公的住宅による整備こそ必要です。中間とりまとめ(案)では、居住支援法人による公的住宅のサブリースなども紹介されていますが、このような方法に加え、民間賃貸住宅の借り上げ方式も検討すべきでしょう。
 新たな住宅セーフティネットの創設により、行政における福祉部門と住宅部門との連携や、居住支援法人等との共同が始まりましたが、まだまだ緒についたばかりです。「住まいは権利」を実現するためには、制度の整備はもちろん、予算措置においても、国が主導的に役割を果たすことが求められています。

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