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在宅か施設か

1 高齢者にとって施設入所は、「まだまだ」「いつかは」「いや、しかし」と何度も心によぎっては消えていく懸案事項になるようです。

2 地域により施設事情は様々ですが、大阪府下ではここ数年、非常に沢山の施設ができ「雨後の竹の子のごとし」という感さえあります。入所後に経営主体が交代することもしばしばで、数年前まではケアマネが施設に関する情報を把握していて、高齢者問題に関わる弁護士としては、ケアマネに施設を紹介して貰うのが施設入所の第一歩でした。しかし、近年、大阪ではケアマネですら情報収集が追いつかないのか、施設紹介業者なる職種が幅をきかせているようです。紹介される施設が本人にとって望ましいものになっているのかどうか、選ぶ側の見極める力が問われているように思います。

  色々な施設があり、施設の外観は立派だが人員不足や人員のモチベーションの低い施設もあれば、外観はそれ程ではなくても困難事案でも対応できる柔軟性がある施設もある上、本人に必要なケアの特性、予算の問題等の兼ね合いもあって一概に「どこが良い」と施設を論じることなどできません。

3 それでも、在宅の高齢者について施設入所を選択するべきなのかどうか、それはいつなのか、経験を積む過程で意識が変わってきた感があります。

  高齢者事案に関わり始めた当初、私は担当する高齢者に徘徊があったり、屋内で転倒が度重なったりすると、在宅を維持しても大丈夫なんだろうか、もし何かあったらどうしよう、後見人としてやるべき仕事ができていないのではないかと不安で仕方がありませんでした。しかし、施設に入っていた高齢者が一時帰宅で見違えるほど元気に自宅内を歩いている姿をみせられたり、施設でも「転倒」が無くなるわけではないこと、「徘徊」に対して在宅でできる対応もあることからすると、「徘徊」「転倒」への対処としては、施設入所が全ての事案の「正解」ではないのでしょう。在宅にも一定のリスクがあるけれど、要はご本人がどのような生活を望むのか、それを実現するのに必要な周囲の資源の有無とどこまで確保できるかを、トータルに評価すれば良いのであって「徘徊」「転倒」で過度にビクつくことはなくなりました。

4 高齢者は在宅を希望される方が多く、いくつかの事案を経験してくると在宅でも何とかなるという思いがあります。じゃあ、施設入所についてどう感じているのかというと、様々な施設があるので一般化することは難しいですけれど、入所されている方を見ていて、これは良いなと思ったことと、逆に、これは辛いなと思ったことを書いてみます。

(1)まず、比較的自立度の高い高齢者向けの施設で、施設側が時おりバスを仕立てたりして外出企画を案内してくれていたのは良いなと思いました。高齢になると、ちょっとした旅行・外出をするにも、企画をしたり、一緒に行く人を募ったりとなかなか煩雑なものです。遊び友達がいても、介護や体調によって以前のように気楽に誘って一緒にお出かけというわけに行かなくなったりするからです。親族がこうしたニーズをカバーできる場合は良いですが、お一人様の場合など、施設側でちょっとしたお出かけ企画を用意してくれるのは、なかなか有り難い機能だと思いました。

(2)それから、投薬の管理。在宅でも訪問薬局を利用すると朝昼晩に飲むべき薬を小分けにして準備してくれますが、実際にそのお薬を都度都度飲ませる、点眼を忘れないよう辛抱強く声掛けできるところは施設の強みかと思います。在宅でもヘルパーや配食弁当業者などの訪問時に投薬の声掛けをして貰うこともあります。それでも、独居高齢者の場合、24時間ヘルパー達が付き添っている訳ではないので、投薬管理が非常に複雑な方や服薬拒否の強い方の場合、施設の投薬管理は魅力的だと思いました。

(3)あとは、空調の管理。最近は毎年のように殺人的な夏の暑さが高齢者をむしばみます。在宅では、ヘルパーさんが来てくれるときにエアコンをつけて貰ったりするのですが、独居高齢者が誤って消してしまい、次に訪問したときは脱水症状態になっているということがありました。「エアコンを切らないで」と大きく張り紙をしたり、リモコンを隠してみたり、あの手この手で在宅時の熱中症回避を図るのですけど、高齢者もなかなか手強く、エアコンのコンセントを引き抜かれてしまったこともありました。エアコンをどうしても消してしまう方の場合、酷暑の時期だけでも一時的に施設(ショートステイ)に避難していただくことはありうると思います。

(4)他方で、施設はあくまでも集団生活になります。集団生活であることに伴う制約は覚悟する必要があるでしょう。

   例えば、感染症が流行ってくると、施設では外出や面会などに一定の制約を加えられることが予想されますが、この点、在宅の方がなんと言っても自由度が高いです。新型コロナが入ってきた当初、施設生活をしている高齢者が外部のデイサービスに行かせてもらえないということもありました。高齢者にとって、来年動けなくなっているかも知れないのに、今、楽しむ機会を奪って良いのか、規制し過ぎではないのかとやきもきしたものです。自立度の高い高齢者ですら、施設の場合、周囲の目を気にして自主規制されているのが、なんとも切なかったです。

(5)また、施設では色々なバックボーンのある方がその人生を背負って集まるわけで、どうしても我慢のならない入居者との接点ができたときに上手く気持ちを切り替えられる人と、難しいタイプの人がいるように思います。自立状態の方から要介護5レベルまで幅広く生活しているような施設では、集団生活の中で介護度の高い入居者の姿を間近で見、接点を持つことになりますので当事者としては複雑な気持ちを抱かれるようです。

(6)それでも、虐待(肉体的なものだけでなく経済的・精神的なものを含む)がある事案や介護自体が家族の生活も蝕んでしまうような事案の場合、病気により自宅でのケアが困難になった場合、物理的に高齢者と周囲を分離して環境を安定させられると言う点で、施設は無くてはならない存在だと思います。

 

 こうして書き連ねてみますと、「在宅か施設か」という問いに一般的な回答をすることは難しく、その人ごとに、その時点毎に評価をして、本人の決定をサポートしていくしかないのだろうと思います。

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