私たち専門職後見人が家裁から選任される事案には、虐待事案や身寄りのない方の支援拒否事案なども少なくありません。ご本人の権利擁護のためには、後見制度を利用して、必要な代理権などによって、本人の生活を立て直し、生活に必要な財産管理や契約などをしていくことが求められています。最近は市町村長申立と本人申立で、全体の申込数の半数を占めるようになっており、この傾向はますます強まると思います。
ところが、その中には、ご本人に預貯金などの資産はなく、あった資産も使い込まれており、毎月の収入は年金や生活保護で生活のために必要ということも多くあります。その場合には、後見人の毎年の報酬を家庭裁判所が決めても、ご本人の資産から支払ってもらうことができない「無報酬事案」となります。そのような事案でも、権利擁護のためには専門職が就く必要があるのですが、専門職として責任ある職務を果たすためには、無報酬では長続きせず、担い手も確保できなくなっていきます。
そこで、各市町村において、成年後見制度利用支援事業という事業に基づき、国の一定の財政負担と、都道府県や市町村の負担で、ご本人が報酬を払えない事案への助成制度が作られてきました。ただ、この事業は、各市町村の判断で、どのような場合を助成の対象にするか、助成の基準・金額をどうするか、などはそれぞれが決めているため、市町村の格差が激しく、また、結局報酬助成とならない全くの無報酬事案も生み出すことになっていました。
そのようなことが続くので、弁護士だけではなく、司法書士のリーガルサポートや社会福祉士も、次第に担い手を確保することが難しくなっていました。
成年後見制度利用促進基本計画に基づき、毎年、厚労省が各市町村に利用支援事業の体制について確認の調査を行っていましたが、形式的な要綱の有無や支給対象は確認できますが、実際の運用の実態は把握できないままでした。
そこで、このままでは担い手確保が難しくなるとして、第二期基本計画でも報酬助成制度の抜本的な検討が求められていましたが、ようやく令和6年度老人健康保健等増進事業の調査研究として、厚労省から野村総研に委託し、全国の自治体にサンプリング調査をした上で、評価分析提言を行った調査結果がまとまりました(「成年後見制度利用支援事業の推進に関する調査研究事業(令和7年5月)」) https://www.nri.com/jp/knowledge/report/files/000045263.pdf
ここでは、各地で指摘されていた市町村間の格差が、具体的な傾向としてはっきり示されることとなり、民法に定められ、全国のどこでも同じように利用できるべき制度が、市町村の格差によって大きく制約されていることが明らかになりました。詳しくは、ぜひこの報告書をお読みください。
そして、この報告書は、今後、国や市町村が見直すべき課題を、次のように、具体的に提案しています。(同報告書120頁~)。
<成年後見制度利用支援事業>
- 成年後見制度利用支援事業に関わる要綱や運用基準の統一化
- 各自治体での予算の積算に関わる負担の軽減
- 報酬助成にかかる財政負担の軽減及び自治体間格差の是正
<成年後見制度利用支援事業に関する検討事項>
- 報酬助成に関わる全国統一の要綱や基準の制定(国が示す基準の趣旨の明確化)
- 報酬助成の対象要件が自治外ごとに異なることを踏まえた、国が示す基準の趣旨の明確化 (申立人、類型、収入•資産要件、在宅・施設の判断基準等)
- 報酬助成額の基準及び上限額の見直し
- 報酬助成に関わる財政負担の在り方の見直し
- 監督人への適切な報酬確保
これらは、いずれもこれまでも各現場で改善を求めてきた事項ではありますが、ようやく国の調査として、課題を明確に整理されることとなりましたので、今年度及び次年度にかけて、厚労省において、全国で統一的な助成制度を確立するために、事業の枠組みのそもそもの見直しから、抜本的な検討をいただき、全国どこでも同じように助成が受けられ、制度利用を必要とするご本人のために、適切な専門職後見や法人後見の担い手を確保できるようにすることが、喫緊の課題となっています。
専門職団体としても、この調査結果と提言を活用し、各地の報酬助成制度の拡充のための働きかけも大切です。